植樹祭(しれとこ森の集い)& トークイベント「命あふれる森をつくる」ご報告第三弾!

植樹祭で木を植えました!

知床での植樹祭は運動が開始された1977年から毎年開催され、運動参加者が自らの手で現地に木を植え、森づくりを実感していただくとともに、森の成長を共有し合う交流事業(しれとこ森の集い)として継続的に行われています。
当日(2022年10月9日)は秋晴れの天候にも恵まれ、町内はもとより全国から104名の参加者が集まり、それぞれが自らの手で1本の木を植えました。
今回植えられた苗木はトドマツ154本。知床の森に自生する幼木を山から掘り採ってきて、苗畑にて5年かけて樹高30㎝程までに育てたものです。苗木は前々日に、斜里高校の職業体験インターン2名が掘り取りから根巻きまでを頑張って準備してくれました!
掘り取った苗木の根巻きをする斜里高校インターン
掘り取った苗木の根巻きをする斜里高校インターン
トドマツ(針葉樹)だけの単純な森になってしまうのでは?
樹種多様な森をつくっているのでは?
と疑問を持った方もいらっしゃるかと思います。
植樹を行っている場所はもともとササが繁茂していた開拓跡地で、まずはシカが食べない針葉樹を密に植え、30年以上かけて成林させ、あえて日が差し込まない森にすることでササを衰退させます。その後、間伐によりギャップを造成したり、広葉樹の苗を植えたりして、ようやく樹種多様化が始められます。
最年長100歳、最年少3歳の参加者
最年長100歳、最年少3歳の参加者
トドマツを植えるYAMAP代表の春山
トドマツを植えるYAMAP代表の春山
「3歳から100歳まで同じことができるような営みは、植樹以外あまりないのではないかと思う…木を植えるという行為は、希望を託すという行為…」春山代表がトークイベントで話していた言葉。
まさに、すべての参加者から未来の知床の森へ託す営みとなりました。
斜里町長からYAMAP様へ感謝状が授与されました。
斜里町長からYAMAP様へ感謝状が授与されました。

「命あふれる森をつくる」DOMO講演会が開催されました!

植樹祭の後に、「命あふれる森をつくる」と題した講演会を開催しました。
植樹祭の後に、「命あふれる森をつくる」と題した講演会を開催しました。

しれとこ100平方メートル運動の取り組みについて|知床財団 草野雄二

 
草野:
しれとこ100平方メートル運動は、開拓跡地を知床本来の森に戻す活動。私たちが目指す知床本来の森の姿は、針葉樹と広葉樹が混ざる針広混交林。そこに至るには100年200年かかると言われています。
森林再生の植樹作業で用いる苗木は、遺伝子汚染を防ぐために、自分たちで畑を作り知床で採取した種から生産しています。広葉樹をどんどん植えていきたいなという思いもあるのですが、現在は大きな問題が立ちはだかっています。エゾシカの増加による深刻な植生破壊です。
エゾシカが増えた原因は、もとをたどると、どのケースも人間の経済活動が関わっているようです。私たちの経済発展はエゾシカの増加の原因になっているのであれば、発展した経済社会を享受している私たちにとって、この課題は他人事ではないと感じます。
そのような状況の中で、私たちはエゾシカから貴重な植生を守るために防鹿柵(ぼうろくさく)を建設したり、エゾシカが好む樹皮にネットを巻いたりして、森の樹々を保護してきました。ちなみに、今年の防鹿柵補修(https://pages.yamap.com/report_project133_2nd)にはDOMOの寄付金を活用させていただきました。
現在は主に、開拓後40年以上経過しても自然の力だけでは森林化が進まないササ地にて、重機でササをかき起こして根が枯らし、後はそこに自然に種子が散布されることで森林化を進めています。また、植樹後30年以上が経過して大きく育ったアカエゾマツ造林地では、人為的にギャップを作り、森を一部壊すことで、林内の環境を変えて在来の樹種を呼び込み、樹種多様な森に導く取り組みを進めています。どちらの取り組みも自然の遷移を利用して樹種多様な森に変えていっています。
アカエゾマツ造林地を樹種多様にする作業(https://pages.yamap.com/report_project133_2nd)にもDOMOの寄付金を活用させていただきました。
これら全ての作業計画は、森林や野生動物の専門家が集められた「森林再生専門委員会議」の中で決定しています。現地作業の状況に応じて経験計画を立案する「アダプティブマネジメント(順応的管理)」を行っています。
開拓跡地を原生的な自然にもどす私たちの取り組みは、100年、200年かかる人の世代をゆうに超えた、自然の時間感覚で言えばまだまだ始まったばかりの取り組みです。これからも100平方メートル運動の挑戦は続きます。

生物多様性保全を目指す森づくりについて|東京大学 森章教授

森:
先ほどご紹介いただいた森林再生専門会議で、科学的なエビデンスをいろんな形で提供しています。そういったデータを広く世間に発信していけたらと思い活動しています。
私たちが取ったデータを活用して未来の森林の姿を予想してみると、たくさん植えれば植えるほど森林が成立し、それに伴って気候変動におけるCO2の吸収が進みます。一方で生物多様性はと言うと、色々な樹種がいる場所の回復は、植栽密度が少ない方があるいは植栽種数が多い方が早まります。
単一樹種の高密度植栽っていうのは、生物多様性の回復を100年以上遅らせる可能性があることがシミュレーションから分かっています。
では、どうしたらいいかということを今後、皆さんとともに考えていきたいというのが私の今回のテーマです。
森林再生は気候変動対策のコスパが良い。例えば、洋上風力発電などで温室効果ガスの排出を抑えて化石燃料の使用をやめようとした時、すごいお金がかかります。それに比べると森林は費用対効果が高く世界的に着目されています。
全く同じ面積であっても、在来のいろいろな木が生えている状態で炭素吸収すると42倍になる試算があります。また、私の研究ですが、日本の森林を沖縄・九州から北海道まで計算してみても、やはり一種しかいないよりも多種いた方が炭素吸収量は増えることがわかってます。
これはなぜかというと、要は役割。いろんな生き物がいると、役割分担をするので、サッカーチームでいうとフォワードからゴールキーパーまでが役割分担するみたいなイメージで、総和としてパフォーマンスが高まるわけです。
これも私の研究なんですけど、温暖化を抑えたら生き物が消滅することもなくなる。生き物がいることによって炭素吸収が進んで、温暖化が緩和できる。「温暖化の問題って、生き物が暑くなってかわいそうね」と思われがちですが、実は生き物がいること自体も、温暖化の問題解決に大事だということがわかってきています。
生物多様性と気候変動は、「双子の環境問題」とよく言われています。今いろんな国や自治体が気候非常事態宣言を出しています。一方で、生物多様性に関してそういう宣言が出たという話はほとんど聞きません。
温暖化対策で「化石燃料の使用をやめましょう」という中で、再生可能エネルギーは必要だからという理由で木質エネルギー、つまり木質バイオマスを燃やしてエネルギーにしようという動きが加速しています。本来のいろんな生き物が生息する林まで切られて燃やされているから、「気候変動を抑えよう。化石燃料を使いましょう」という流れの中で、生物多様性が燃やされてる状態も起こっています。
一方で、気候変動に続く形で、「生物多様性を大事にしましょう」という動きは、ビジネス・ファイナンス業界のいろんなところで起きています。
新型コロナウイルス感染症が世界にダメージを与えましたが、感染症よりも生物多様性の損失の方がリスクファクター(危険因子)として大きい、という評価がされています。そういった中で、例えばスイスでは、投資家たちは「生物多様性対策にきちんと頑張ってくれない企業にはもう投資しません」という流れができはじめています。
イギリス政府が出版したダスグプタさんが書いた報告の話をします。
自然を資本としてとらえて、自然があることは銀行預金があるみたいなもので、そこから私たちが森に行ってレクレーションができるとか、食べ物が得られるとか、森林が炭素を吸収してくれるとか、そういった恵みが生まれるというのは、もともと元本として預金があるから可能だという考え方があります。預金が目減りすると、利子なり利息なりは当然減るわけで、そういう中で元々の預金本体が減ってきてると言われています。
野生動物は私たちに病気(人獣共通感染症Zoonosis)をもたらすホストです。生き物の多様性が低くなると、そういった生き物に対して人間が暴露をします。
一方で、いろんな生き物がいると、病気のホストとなる生き物の存在価値が薄まるので、「多様性がある方が人獣共通感染症は広がりにくくなる」という仮説が昔からあります。
例えば、デンマークの国民の健康データの分析結果によると、家の周囲に緑があると精神疾患のリスクや、死亡率も低下することが最近わかってきたそうです。フィラデルフィアや中国の研究でも、周囲に緑があると死亡率が有意に下がるというデータが出てきています。
もう少し生物多様性に踏み込んでみますと、フィンランドの小学生から高校生までのデータを取って、お家の周りに花が咲く植物の種類が多い環境で育った子供ほど、アトピー、喘息などのアレルギー疾患の罹患率が下がるというデータがあります。
ざっくり言いますと、いろんな生き物に触れていることによって、いろんな細菌とか常在菌とかを取り込むので、免疫がつくわけです。
ボンチャレンジ(一兆本の木を植えようというキャンペーン)で、世界的には気候変動対応でたくさん木が植えられています。もちろん木を植えるのは大事で、私たちも今日の午前中、木を植えてきたわけです。一方であまりにも単純な林を作ると「緑の砂漠じゃないか」という意見もあり、炭素吸収量も限定的になります。
2年前に出たデータですが、原生的な自然に対して、人工的(二次的、都市的)にその土地改変が進むほど、人獣共通感染症を持っている野生動物とのコンタクトがどんどん増えるというデータがあります。多くの生き物は、本来の自然たる森林がきちんとあれば、その中に留まってくれるわけなんです。それがどんどん改変されると、森林から出てこぼれてくる。ジカウイルス、HIVウイルス、あるいはCOVID-19のもとであるSARS-Cov-2もそうかもしませんが、様々な病原体が人間社会にこぼれてこないためにも、森林をきちんと保全するのは大事だと言われています。
世界経済はCOVID-19によって大きなダメージを受けました。一方で、あらかじめ自然保護に予算を割いていれば、パンデミックによる経済損失の2%の支出で予防できたという試算があります。もし、きちんと森林を保全する、違法な野生生物の取引をさせない、この2つにお金をかけるとします。世界がダメージを受けた総額のたった2%をあらかじめ支払って、きちんと自然を保護するだけで、こういうCOVID-19のようなことは起こらなくなる。完全に起こらなくなるわけではないですが、非常に制御できるという試算です。
世界的には今、気候変動温暖化を抑えよう、CO2を森林に閉じ込めようと木をいっぱい植えている中で、知床ではそれを45年ぐらい前から実践されてきました。今は世界に先立って多種多様な生き物がいる森を作ろうとしている。この取り組みは世界に誇るべきだと思っています。
知床が本来の「自然の摂理が働く」、多種多様な生き物がある豊かな森林に再生することができれば、世界に向けてすごく発信できると思っています。

知床や他地域での環境保全活動への支援について|YAMAP代表 春山

 
春山:
まず簡単にYAMAPについての自己紹介をします。
僕らは、登山とかアウトドアとかがビジネスの土俵ですが、単に登山アプリを作りたかったというわけではありません。登山などの自然の中で体を動かすことを通して、「自分たちの命が地球とつながっている、あるいは環境とつながってる」という、そういう実感を、都市に住んでいる人も、地方に住んでいる人も持つ方が楽しく生きられるし、環境も僕らも豊かに生きていけるのではないかと思い、YAMAPの事業を始めました。
山とまちのつながり、あと山~川~まち~海がつながっていて、それがちゃんと循環する場所づくりをしたいというのが僕らのビジョンです。
YAMAPの特徴を簡単に説明しますと、携帯の電波が届かない山の中でも皆さんがお持ちのスマートフォンで自分の位置が分かるというサービスを提供してます。今、山の遭難事故が増えておりまして、そういった事故を1件でも減らしたいっていうことで、このサービスを作りました。
もう一つの特徴は、山に行った記録を簡単に共有できるSNSというサービスです。「コミュニティ」と僕らは言うのですが、山に登った自分の記録を簡単に共有して、ユーザーさん同士で情報を交換する機能です。「今、雪が降ってるんで、こういう装備が必要だよ」とか、「こういう花が咲いています」とか、そういった情報交換をして山を安全により楽しめる仕組みを作りたいという目的で、ツールとコミュニティをワンストップで提供しているというのがYAMAPの特徴です。
本題のDOMOというポイントシステムの取り組みについて説明します。
まず、山を取り巻く課題はすごく深刻になってるいると実感してます。この課題認識があるので、僕らは民間企業ですが、自分たちの事業で利益を出すだけではなく、社会的インパクトを出すということをやりたくて、DOMOという取り組みを始めてます。
1つ例としてあげると、僕らが住んでいる九州、熊本県では最近水害が非常に多いです。
これは球磨(くま)地方の山の写真ですが、山に肌色の線が入っています。これは林道で、ほとんどの木が伐られた状態です。だから、多量の雨が降ると土砂が流れてしまって水害につながるという状態になってます。なので、どれだけダムを作っても川を護岸しても、やはり山が荒れて山に保水力がないと被害は止められないという悪循環に陥っていると思っています。木を伐ることは否定していませんが、次に何を植えるかまでをセットでやらないといけないと思ってます。
もう1例として、九州も知床と同じでシカの食害がひどいです。これは球磨地方の山の斜面を撮った写真ですが、新芽がほとんど育っていないです。シカが食べない植物しか残っていない状態になっていて、これだと森が育たないので全く保水力がない。ここをシカが縦横無尽に歩いているので、その道がまた川になって水害につながるという、そういう悪循環に陥ってます。
これらの山の課題は、決して林業関係者だけの課題ではなくて、街に住んでる私たち自身の課題だと思ってます。
「登山者は山に来て遊ぶけれども、山に全く何も返してないよね」とある方に言われた時、僕は言い返せなかったです。それは僕も一登山者として何となく思っていたことで、これだけ山の恵みとか、山の良さを実感している僕ら登山者が山に一体何ができてるのだろうと、やはり僕自身も反省しないといけないと思いました。その反省がDOMOにつながったという背景もあります。
登山にフォーカスを絞った時、登山道は一つ大事なテーマだと思ってます。今まで自治体の方、あるいは有志の方たちが登山道を整備してこられたのですが、自治体もなかなか財源がなくなったり、有志の方たちも高齢化したりしていて、登山道自体が荒れている現状があります。
僕は、自助と公助の間に「共助」というものがあると考えていますが、この共助の仕組みがうまく機能してないのが課題かと思っています。
この現状を踏まえた上で僕たちはどうしたらいいか?
山をどうやって再生し、良くしていくか?
その取り組みを今から始めないといけないのではないか。登山道整備に関しても、登山者自身が何かしら関わるという仕組みを作っていく。それが僕は自助と公助の間にある共助になると思っています。
山で遊んでいる僕たちが山を良くする仕組み。自分たちで良くしていく。そこに自治体も巻き込んでいくという、こういう新しい共助を作っていく必要があるのではないと思ってます。
コミュニティは21世紀のライフラインになると思っています。
自分ではできない、あるいは自治体や国ではできないことを、どういうふうに同じ課題を感じている人同士、あるいは同じ趣味の人たち同士で手を携え良くしていく仕組みを作るか。一緒にやっていくか。こういうことをやっていかないと社会が良くなっていかないと思っています。僕らはNPOではなく企業ですが、共助のチャレンジを企業が事業としてやっていく、そういう時代に入ってるかなと思っています。
奈良県の吉野は、一目千本と言われるほどの桜の名所です。この奈良県の吉野がなぜ桜の名所になったのかご存知の方はいらっしゃいます?
吉野のご神木が桜なんです。仏像が桜で彫られているので、その昔、吉野に詣でるときは、自分の自宅から桜の苗木を持っていくか、あるいは山の麓で地元の子どもたちが売っている桜の苗木を買ってお参りをして植えるということが風習となり、吉野は一目千本といわれる桜の名所になったそうです。この話を聞いた時に、僕はこれだと思ったんです。
つまりこの仕組みは、お参りに来ることと、山を良くすること、それに願いを込めるというのはセットになっていて、日本の自然界にあった山を再生する仕組みになっているのではないかと思いました。これを現代に蘇らせて実践することができれば、吉野に限らず自分たちの身近な山ももっと良くなるのではないかと思いました。
その実践案がDOMOというプロジェクトになります。TwitterとかFacebook、一般のSNSには「いいね」ボタンがあります。投稿を見たて少し気持ちが動いた時に「いいね」を押すというボタンですが、YAMAPにも「いいね」ボタンがあり一番使われる機能ですが、これが価値になっていないことがすごくもったいないと思ったわけです。
DOMOは循環型のコミュニティポイントと僕らは名付けてます。「いいね」をポイント化したと説明するとわかりやすいかと思います。価値化するだけではなくそれを循環させるという設計にしています。
DOMOのポイントシステムの一番の特徴をご説明します。
楽天ポイントとかTポイントみたいなのが一般的なポイントだと思います。これらの仕組みでは基本的には自分のために使うポイントになっているため、貯めるというインセンティブ(動機付け)がすごく働きます。DOMOポイントは逆で、「貯めても腐る」という設計にしてます。3ヶ月で失効する(腐る)ので、どんどん使ってください。気持ちをお互いに送り合うという共感、感謝、応援のために使ってください、という仕組みにしています。
また、楽天ポイントでは楽天のあらゆるモールで使えるという設計にしていると思います。DOMOポイントは、基本的には僕らが指定した支援にしか使えないという設計で、その使い道は全て登山道整備ですとか、今回の知床のような森づくりですとか、自然を良くする活動にしか使えないという特徴を持ってます。ここが極めてYAMAPのDOMOの面白いところでもあり、なかなか最初は理解されにくかったところかなと思ってます。
どういった時にDOMOポイントがもらえるかというと、先ほど利他的な行為と言いましたが、例えば活動日記を公開してくれたりとか、見守り機能をオンにしてくれたりした時にもらえます。見守り機能をオンにすることで、お互いに遭難防止になるという機能なので、そういう他者に役に立つ行為をしてくださった時にDOMOポイントがもらえるという設計にしています。
山に行く DOMOをもらう → 自然再生に使う → 山に行く人が増える
このようにグルグルと回る循環のシステムを作りたいと考えて、去年の7月にDOMOをリリースしました。登山者と知床財団のように森林再生や土地を良くする活動をしている人たちとを、DOMOでつなげていきたいと思っています。
DOMO実践例として、熊野古道でのウバメガシの植樹や、北九州の英彦山での鎮守の森の復元、北アルプスでの近自然工法による登山道整備の事例を紹介…。
今日の午前中に、僕も知床の森で植樹をしてきましたが、その良さをもっと社会に伝えたいと、今回また改めて思ったところです。
今日は3歳から100歳の方が関わってくださっていて、100人以上の方で植林をしました。3歳から100歳まで同じことができるような営みって、植樹以外にあまりないのではないかと思いました。
僕らも英彦山で植樹をした時、誰一人嫌な顔をしていなかったです。皆さんすごく笑顔でした。木を植えるという行為は、希望を託すという行為で、木を植えることでこの土地に深く根ざすという実感が持てる。単に経済合理性というよりも、精神にもいいのではないかと思っています。自分の人生が終わったとしても、続く命を見る。あるいはその植物に命を託す、思いを託すということは、極めて人間的行為だと思って、これを林業関係者だけにやらせているのは社会的に良くないのではないか。
実は山が荒廃してる原因がそこにあると僕は思っており、「森を作らなきゃいけない」のではなく、森に関わる…あるいは植林をしながら「植樹をするっていうのはこんなに楽しいことなんだよ」ということを、もっともっと一人一人が実感できるようなきっかけ作りが必要で、それを僕らがやっていかないといけないと思いました。
森づくりに関わること、植林するということは非常に尊いなと思っています。
今回の知床へのDOMO支援プロジェクトに支援してくださった人数は2万1700名におよびます。金額としては540万円ほどが集まりました。登山者の人たちは自然を愛する人たちだと思っています。そういう人たちに情報を届けることができれば、支援をしたい人や関わりたいという人は、一般の方たちと比べて非常に多いと思っています。ただ、そういう人たちになかなか情報が伝わっていなかったり、関わる仕組みがなかったりという現状が、今はもったいないと思っているところです。YAMAPがそこをつないでいくようなことができたら、非常に面白い取り組みが全国各地でできるのではないかと思っています。
僕らYAMAPがというよりも、YAMAPユーザーさんと一緒にこの支援を盛り上げている仕組みが一つの特徴だと思っています。単にお金をお渡しするだけではなく、今後は森づくりや登山道整備などに、ユーザーさんと一緒にそれぞれ関わることができれば非常に面白いなと思っています。こういったプロジェクトが今は16種類ぐらいまで増えていて、DOMOに関わる支援者数は28万人を超えてます。
では、DOMO支援のポイントの財源どうしてるのか?ということが皆さん気になっていると思いますが、YAMAPが全部負担しています。知床に限らず全部でいうと、現時点で4000万円弱ぐらいになります。広告宣伝として考えれば、テレビCMを打ったり、広告を出すよりは健全なお金の使い方ができているかなと思います。僕らは単に営利を出すだけではなく、やはり事業インパクトを出したいと思っているので、多少ここで利益を失ったとしても、山を良くするということに自分たちの事業をしっかりと貢献させていきたいと思っています。
最後に、山に行く人が増え知床に来る人が増えることで、知床が良くなる。それは経済的にだけではなく、環境が良くなるという仕組みをこれから作っていかないといけないと思っています。皆さんと知恵を出し合いながら、吉野詣ではないですが、単に「知床に来て、知床五湖を歩いて、楽しかった」ではなくて、どういう風に関わっていただくのかを考え、その仕組みが実現されれば、すごく良い循環が作れるのではないかと思っています。

トークセッション

 
司会は斜里町まちのクリエイティブディレクター初海淳さんが担当。
司会は斜里町まちのクリエイティブディレクター初海淳さんが担当。
初海:
生物多様性の必要性とは?
森:
生物多様性の問題は、はっきりとした指標がないとよく言われています。温暖化の問題であれば平均気温プラス2度とか1.5度という目標値を設定できるわけですが、生物多様性だとどうやって測るの?それって植物の話?虫の話?動物の話?微生物の話?となるわけです。
森:
例えば私たちが食事をする時に、「日の丸弁当」と「多種多彩な食材が入った弁当」のどちらを食べたいですか?そしてどっちを食べる必要がありますか?と聞かれたら、当然、後者を選ぶと思います。人の栄養素を考えた時に一つのもので成り立つわけはない。自然は炭素吸収してくれるというだけではなく、いろんな価値があり、その価値は地域によっても違う。なので、「これだけがあれば良い」とは簡単には言えないのです。
日々の生活でいろんなものを食べることが大事なのと同じように、いろいろな生き物がいるということ自体にきちんとした価値があるのです。私たちは、それを少しずつわかりやすい形で価値評価しようとしています。
 
初海:
どのくらい多様性があったら良いのでしょうか?
森:
木を植えればすべて解決するわけでもなければ、植えることがダメというわけでもなく、その中庸を大事にしなければいけないということです。
森:
シーフードでいうと、多種多様な魚類を食べればいろんな栄養素を摂れるほかにも、人の健康に必要な食べる総量(ポーション)が少なく済むことがわかってきました。特定の魚種だけを食べると、ある栄養素は豊富に入っていますが、他の栄養素はほとんど入ってないため、大量に食べないと必要な栄養素は摂取できないわけです。今、フードロスがどうのと言われてる時代で、やはり当たり前の話ですがいろんな食べ物があった方が健康にも良いし、地球の健康にも良いということが分かってきました。そういう意味でも生き物の多様性は大事だということがわかってきています。
春山:
生物多様性を考える上で、わかりやすい生き物がいるかというのは一つ指標だと思っています。アラスカのネイティブインディアンには「サケが森を作る」という言葉があって、結構、それは的を射ていると思います。要はクマがサケを獲って、秋のクマはサケの頭とイクラの美味しいところだけを食べて、後はもう森に返していく。それで、南東アラスカの森が豊かになるというのが循環としてわかった。だから南東アラスカを見ていた時に、生物多様性を象徴する生き物はやはりサケだと思い、サケが遡上できる河川があるということはその周りの環境の多様性も包含されている。
アイヌの中でも「川の神様はサケ」だと聞いたのですが、そういうわかりやすい、あるいは代表するような生き物を定点観測しながら、生物多様性をわかりやすく社会に伝えるのはどうでしょうか。
森:
北米であればビーバーがいるから自然のダムができている。その生き物の代わりをできる生き物はいない、あるいはその生き物がいること自体が森と川がきちんと繋がっている証明となる。河川にダムなどの工作物がないからサケ・マスが上がってきている、だからそういう森が成り立っている。私はそんなエコシステムマネジメント(生態系の管理)をずっと研究しています。生態系の管理とは、川と海と森がきちんとシステムとして連携して繋がっている状態で、その中には例えばフクロウのような象徴的な生き物もいて、そういった生き物がいること自体が、間接的に健全性の証明になるというのが事実です。
春山:
英彦山は北部九州にある霊山で、単に聖地にだけではなく3つの海の源流と言われています。玄海灘に注ぐ遠賀川の源流、東は周防灘に流れる源流、南は有明海に流れる源流の山で、そこが聖地になっています。
僕がびっくりしたのは、遠賀川の途中に鮭神社があることです。鮭を祀っている神社がなぜあるのかを調べたら、小倉や北九州のあの工業地帯を流れる遠賀川は、鮭が遡上する南限の川らしいのです。今でも1年に1~2匹が上がってくるらしいですが、その鮭を食べずに鮭神社にお祀りする風習が未だに残っています。それを知った時に(これは僕の妄想ですけど)英彦山の鎮守の森がもう1回復活して、山が豊かになって、炭鉱が寂れた北九州のあの工業地帯の遠賀川に鮭が戻ってきて、何万匹もが遡上して、炭鉱のまちが鮭のまちになったら本当に面白い。そのような妄想しながら木を植えてたのですが、そういう繋がりがイメージできるのも鮭が象徴でした。単に山を良くするっていうよりも、川と海がつながっていて、そこをまた舞台にした生き物が戻ってくるというのは、非常にロマンがあるし、希望が持てると思いました。
森:
しれとこ100平方メートル運動では木を植えるだけではなく、もっと包括的な広い視点を持って活動が続けられ、世の中の人々にサポートしていただいています。今後もきちんと継続するとともに、アピールしていけたらいいのではないかと思います。
春山:
知床ではものすごく本質的な取り組みを、40年以上にわたって取り組まれている。その価値は、新しくまた何かをはじめたりこれ以上増やしたりする必要はなく、コツコツ続けられるのが良いと思います。つまり土地を元の自然に戻すだけではなく、森を作ることの意味合い、それがどう生態系にインパクトを与えるのか、どのような社会的意味を持つのかを発信できると思っていています。
春山:
僕は22歳の時に初めて知床に来ました。ナショナルトラスト運動に関わった恩師に、「名札があるので一緒に見に行こうよ」と誘われて来訪したのが最初の知床との出会いです。20年前と比べて、知床がやってることの意義や価値はものすごく重要になっている。もちろん地域性があるので、知床のやり方が全国どこでも当てはまるというものではないですが、こういうやり方で成功した地域がある、あるいは悩みながらもちゃんと自然が回復した場所があるということを、多くの人が知るだけで希望を持てのではないでしょうか。もちろん財団の方たちや、僕らみたいな共感し合う人たち、あるいは森先生のようなアカデミックな人と一緒に、もっともっと社会に発信でれば、「知床の取り組みがあるじゃないか」のような希望にもなるのではないかと、自分の実感としてあります。
草野:
現場の作業はもちろんなのですが、この運動をいかに社会に発信してい くかというのはずっと課題になっていていました。今回YAMAPさんのDOMOで支援を募集していただいて、その公式ページで知床の活動も報告させていただき、「YAMAPの記事を見てボランティアに参加しに来ました」という方も実際にいました。
初海:
運動地860ヘクタールでしたか。その面積を2人でやられているということで、もう実際作業だけで大変になっていますよね。
草野:
ボランティアの方の力がすごく大切だというのはもちろんですが、今日の植樹祭では153本植えたのですが、2人でやったら多分、2日も3日もかかる作業です。皆さんのご協力があれば30分くらいであっという間に植えられてしまう。本当に頼もしい限りです。
初海:
先ほど、森教授が生物多様性の価値を伝えるのがすごく難しいとおっしゃっていました。春山さんもその価値を伝えることの重要性を話されていましたが、一言で言えないかもしれませんが、どういうアプローチが一番有効なのでしょうか。
春山:
僕がアプローチはこれしかないと思っているのは、「経験すること」だと考えています。今は情報があふれすぎていて、環境論に関してはもう皆さんうんざりしているのではないかと思います。大事なのはわかっているけど、体感としてそれがどういう意味を持っているのか(楽しいのか)、あるいはどういう空間でそれをやってるのか・・・つまり実感を伴なわずに論だけが一人歩きしていて、すごく空虚になってしまっていると思います。
春山:
僕は20歳の頃から山に登るようになって、山に教えられたことがすごく多く、今でも教えられています。僕は美の源泉は自然だと思っています。美とは何かというと、やはり調和だと思ってます。神話もよい。神話力と言ってもいいと思うのですが、あの伝え方に人間社会の目指す方向性があるのではないかと思います。
春山:
体験しておくと自然がいかに気持ち良いかがわかるし、その自然の気持ち良さと自分の命がシンクロした時に、自分がここにいていいんだという存在の肯定も得られる。生きてることの幸せさというのは理屈ではなく、嬉しいという感覚でわかると思っています。「自分の命を喜ばせよう」ということは、自分単体で自己満足していてもそれはすごく貧しいもので、他者や周りの環境あるいは他の生物とともに生きていく方が、僕らは楽しく生きられるよねって、うんちくではなくこれは実感だと思う。だからもう四の五の言わずに、若い人や子供たちは外に連れ出すべきだと思っています。自然教育はもっと重要になっている。実際にやってみて、自分が何を感じるのか。そこから体験をしていくと、森先生のようなアカデミックな役割の価値がようやく両輪で回ると思います。
春山:
今の日本社会は一次産業に従事してる人が200万人を切っています。自然経験がない状態で、自然を語ったり自然を知ったりしても上手く噛み合っていないと思います。すべての人が1次産業に関わるべきとは思いませんが、少なくとも自分が住んでいる地域から見える山や海にもっと関心をもつ。あるいはもっとそこで遊んでみる。そうすることでもっと関心が生まれてくるし、多様性の意義や多様性というのはどういうことかというのが頭ではなくて体でわかるのではないかと思っています。やはり外に出る、自然で遊ぶというのが一番早いと思っています。
初海:
単純な情報発信のコツみたいなことではなく、もちろん知床財団が情報発信をしますが、体験してもらってそこから発信していく。そして体験した人がまた発信していくということですよね。そういう仕組みを作る人も、これから知床財団でもできたらすごくいいですよね。
森先生に質問です。知床で行われている針葉樹と広葉樹を混在させる森づくりは、世界的に見て特別なことですか?それとも結構あることですか?
森:
もちろん、世界中でいろんな自然再生の試みが行われていて、知床のようにいろんな木々を混ぜて植えられています。一方で、45年間もやってきたとか、その中で子供たち向けの自然教室のような長期ビジョンを持って自然再生を続けている例は、私自身は全然聞いたことがないです。
初海:
ありがとうございます。では最後に一人ずつ一言お願いしたいと思うんですけど、草野さんからお願いします。
草野:
もちろんこれからも森林再生の取り組みを続けていきますが、とにもかくにも皆さんのご支援があっての活動だと思っています。寄付をくださる方、また現地で苦労して森づくりを手伝ってくれる方々に支えられている活動だということとがこの運動の素晴らしさだと思いますので、どうぞ引き続き100平方メートル運動の森林再生を応援していただけると嬉しいです。
春山:
林業関係者から聞いたすごく良い言葉があります。「育林は育人」。林を育てるのであれば、人を育てなさいというのが林業関係者の中でずっと受け継がれた言葉だそうです。
風景とか風土というのは僕らの心や社会の反映だと思っていて、自然が荒れているということは抽象論ではなく、もしかしたら本当に人の精神とか心が荒れてる…自然から離れてる…その結果ではないかなと思っています。おそらく気候変動も同じ。エネルギーも無尽蔵にある世界ではないので、食料やエネルギーをずっと他国に頼っていくこともなかなか経済的にも難しい時代に入ってきている。本当の意味で、ローカル(地域)でどういうふうに食料やエネルギーを自分たちで賄っていくのかということが切実な時代になると思っています。その時大事なのは、流域でどう自分たちの暮らしを整えていくかという観点で、その時に必ず恵みの大本である山とか自然が財産になると思う。それをみんなで育てていこうという観点も今以上に高まるのではないかと思っています。
春山:
そういった地域が日本社会にまだあると思っていて、ロールモデルをどれだけ作れるかが課題です。そのロールモデルの一つとしての知床を発信することで、その在り方に希望を持つ地域の人たちはいるのではないかと思ってます。
僕らの場合は福岡ですが、福岡に戻って自分が住んでいる町で同じような取り組みができないかとか、自分が暮らす地域でも学んだことを活かしていけないかという、そういう本当の意味で生き方みたいなものが問われる時代にどんどん入っていくと思います。僕もこれから知床に関わり続けたいと思っていますし、単にお勉強するだけではなく、自分の地域を巻き込みながら実践していきたいと思っているので、また皆さんとどこかで会う時に「英彦山こんな風に森になりました」とか「鮭はまだ上がってきてません」などと、報告や共有できたらと思っています。
森:
私もやはり知床はロールモデルだと思っています。一方でロールモデルでもあるとともに、他の地域に対して責任もあるのかもしれないと思っています。もちろん、知床以外の地域でもいろんな取り組みがあって、知床ではできていないようなことを実践されている地域もあると思います。しかし、知床でやってきたことを他の地域に向けてきちんと発信していくことは可能性でもあり、ある意味で責任ではないかと思っています。特に全国の方からご支援していただいてきた中で、そういった責任みたいなものもあるのではないかと思っています。
森:
日本経済が冷え込んでいる中で、ともすれば自然環境保全とか自然再生に人・お金・時間を使ってる場合ではない?!みたいな感じになってしまうかもしれません。しかし、次世代や次々世代、そういう子たちにきちんと価値のある自然を残すということ自体は、今の人たちの責任だと思っています。これからも、私も研究室を挙げて色々な形で関わらせていただけたらと思っています。運動の支援者の方とお会いすることは中々ないですが、たまにこうしてお会いできて、またお話とか意見交換できたらと思いますので、今後もよろしくお願いいたします。
春山:
あと最後に1つだけ。その次の世代の人たちに情報発信するのは、違うシステムとかアプローチが必要だと思うので、そういう意味で知床財団の山本さんとか草野さんと中西さんだけはいろんな意味で無理でなおさら・・・中西さんがTikTokでクマダンスを踊るとかそういう仕掛けも・・・冗談ですけど(笑)。こういう機会に新たなチャンネルを作って、広げていって、次の世代に繋いでいくことが大事なのではないかと思っています。
初海:
ありがとうございます。では終了したいと思いますので、もう一度3人に大きな拍手をお願いします。
 
 

しれとこ100平方メートル運動への寄付のお願い

 
「100平方メートル運動の森・トラスト」は知床の開拓跡地に森を育て、かつてそこにあった自然の再生を目指す運動です。この数百年先を見据えた運動を続けていくためには、皆様の継続的なご支援が必要不可欠です。知床の自然を守り、育てていくために、世代を超えて挑むこの運動を応援してくださいますようお願いいたします。